課 外 授 業


−5−

 俺を背中から抱き締めていた腕をちょっとゆるめると、誠一郎は俺のシャツのボタンを外し始めた。
 逆らってもしょうがないと思って俺は力を抜いた。
 そう、そう云う意味では、俺は誠一郎に触れられるのは全く嫌じゃなかったし、逆らおうものならばどれくらい辛い思いをするのかは、それこそ身をもって知っているのだ。
「よしよし、おとなしくしてれば優しくしてやるよ」
 そう云いながら俺のはだけた首元に誠一郎は唇をよせてくる。
 それだけで、この後にくるであろう快感を身体が思い出して、ぞくっと震えがきた。
「身体はちゃんと覚えているみたいだな」
「そ、んなのどうでもいいだろ・・・・・・」
 そんな強がりの言葉をはいても、俺の身体はもうすでに誠一郎から与えられる次の快感への期待で一杯だった。
 もう半年以上触れられていない。なんて、触れられたことだって実は数えるくらいだった―――初めての時は、半分強姦みたいなもので、それこそその後も肌を合わせ続けるなんて、その時は思ってもいなかった。
 何故か誠一郎が俺に見せた執着、そしてその執着に依存していた俺―――それがその時の俺達の繋がりの根本にあったと思う。
 誰からも必要とされてないと思っていた俺に執着した誠一郎。
 暴力的で怖い存在でしかなかったけれど、俺はその執着心に依存して自分の存在価値を見出した。
 誰かが必要としてくれることが、こんなにも心地よいものだと云うことを、俺は初めて知ったのだ。
 だけら逆に怖かった。誠一郎もいつか俺から離れて行くんじゃないかって、そんな不安に俺は結局勝てなかった―――俺は誠一郎の側から離れた。
 親の都合に振り回されて、それでも結局俺は親の作った生暖かい世界へ戻ることを条件に、自分の存在価値自体を捨てたのだ。
「なに考えてんだ、こっちに集中しろよ」
 噛付かんばかりの勢いで背中にかぶりついてくる―――誠一郎は跡を付けるのが好きだったなぁ〜と、ふとそんなことを思い出す。
 それこそ、酷い時には夏にも関わらず袖のあるものしか着ることができないくらいだった。
「あんた、俺のこと探してたの?」
 あがる息を抑えながら問いかけてみる。探してくれていたんじゃないか、そんな期待を持つこと自体おかしいのかもしれないけど、俺は聞かずにはいられなかった。
「さぁな・・・・・・ただ、見つけたらただじゃおかないって、そうは思ってはいたけどなぁ」
「ひゃっぁ」
 その台詞と共に、いきなり中心を掴まれる。それはそれまでの優しい手の動きなんかとは違って、そう、それこそ過去の恐怖を呼び起こさせるものだった。
「なんだ、逃げ出しておいて、お前、本当は俺に探して欲しかったのかぁ?」
「そ、んぁん・・・じゃ・・・って、俺は逃げ出した訳じゃ・・・・・・くぁっ」
 優しさなどなにもないその手の動きに、思わず涙が零れてしまう。
「びっくりしたよ、お前が海城に現れた時は。しかも顔は「ジョウ」なのに「ゆずる」なんて呼ばれてるんだからな。しかも年齢まで違うときてる・・・・・・最初は他人の空似かとも思ったけどな」
 思ったままほって置いてくれたらよかったのに―――なんてことは、本心だとしても絶対口には出せない。
 探し出すほどの執着がないのなら、もうほっておいてくれればよかったのに―――そんな泣き言はそれ以上に云えなかった。
「なんで、俺だって確信したんだよ・・・・・・」
「あぁ、跡だよ。昔付けた胸の傷跡。さっきちょっと一服もって確かめさせてもらったんだ。まぁ、寝てるお前を犯したって面白くもなんともないから、そこで止めておいてやったんだけどな」
 がりっと俺の胸元にある古傷を爪で引っ掻きながら云う。
 もうすでにただの跡となっているその傷は、誠一郎から初めて逃げ出そうとした時につけられたものだった―――この傷がある限りお前は俺の所有物だと、そう笑いながら傷を付けたのだ。
 その傷だけが俺の寄り所だったなんて、もう笑っちゃうしかないくらい馬鹿な話なんだ。



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