課 外 授 業


−6−

 暗い室内に二人の荒い息が響いている。
 俺はそれを何処か遠くから響いてきているように感じていた。誠一郎が腰を揺らす度に、その結合部分から溢れる音は、自分の身体から発せられているものとは信じられなかった。
「あ、ん・・・・・・」
 もう声を抑えることもできず、俺は誠一郎から与えられる快楽に酔いしれていた。
「せぃち・・・ろぉ、もぉ・・・・・・」
 零れ落ちる涙は痛みのせいじゃない。
 誠一郎は優しく俺の頬を伝い落ちる涙を舌ですくう。それすらも俺には耐え難い快楽となって襲ってくるのだ。
「ジョウ、もうちょっと我慢しろっ」
「む、りぃ・・・」
「仕方ない奴だなぁ・・・・・・」
 そう微笑みかける目も、激しく触れ合う身体も、全てが俺を支配して行く。
 俺は引き付けられるように、そっと誠一郎に口付けた。そっと口付け離れようとした瞬間、俺の唇は更に激しく誠一郎に搦め捕られていた。
 それまで口には一切触れようとしなかった誠一郎の変わり身に瞬間驚くが、そのまま舌を絡め取られれば、もう逃げることなどできなかった。
 それこそ俺の望んでいた触れ合いであり、俺は自分から吸い付くように誠一郎のそれへと舌を絡めていった。
 お互いに飲み切れない唾液が銀糸のように頬を伝い落ちる。
「せぃ・・・ちろぉ」
「本当にお前はこういう時だけ素直になりやがる」
 離れた瞬間の、そのちょっと照れ臭そうな誠一郎の言葉を前にも聞いたことがあるような、その優しい笑みを前にも見たような、俺はそんな感覚に陥った。
 何時だっけ・・・・・・
 そう思ってもう一度誠一郎へ視線を向けた瞬間、更にきつく突き上げられた。
「こっちに集中してろよっ」
 そう云いながら更に動きを激しくする誠一郎は、すでに何時もの誠一郎で、俺はその快感だか苦しみだか分からない刺激に、ただただ流され過ぎないように誠一郎の背にすがることしかできなかった。



 さらっと髪をなでる感触に俺はふっと目を開けた。
 タバコをくゆらせ背を向けながら、空いた手で俺の髪をなで続ける誠一郎の背中を見て、俺はほっと安堵の息をもらした。
 目を覚ました時に何時も感じる孤独感―――誠一郎と居る時だけは違っていた。
 俺が目を覚ますまでは必ず近くにいてくれた。それが情事の後であろうがそうでなかろうが。
「誠一郎ぉ・・・・・・」
「お前は本当に物覚えが悪いな。俺を呼び捨てにしていいのはやってる時だけだって何度も云っただろうが」
 そんな意地悪な言葉とは裏腹に、俺の髪を梳くその手は優しくて、俺はそっとその手に自分の手を重ねる。
「誠一郎・・・・・・さん」
「よし、ご褒美だ」
 そういいながら優しくおでこにキスをしてくる。
「こんなのご褒美じゃないだろ・・・・・・」
「ばぁ〜か、お前は好きだろ、こう云うの」
「好きだけどさぁ」
 口を尖らしながら文句を云おうとした俺に優しく微笑みかけると、誠一郎は今度は唇をついばむようなキスをしてきた。
 以前も時々こんな甘い仕草を見せた時はあった。何時もとのギャップに最初は驚いたけど、俺が甘えた時に見せるんだって、しばらくして気が付いた。
 その時に初めて、誠一郎の執着心の元となる感情が、もしかしたら「好き」と云う感情なのかもしれないと、そう思い至ったのだ。
 だから、俺はその手から逃げ出したのだ。



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