課 外 授 業


−7−

「ばぁちゃんが死んだんだ・・・・・・」
 俺はぼそっと呟いた。
 あの時の、それこそ言い訳でしかないことだけど。
 今、誠一郎の優しさに甘えていることは分かっているけど、それでも云わずにはいられなかった。
「それで親元に帰された。もう好き勝手に遊び回ることもできなかった」
 親元から逃げるためにばぁちゃんを利用し、ばぁちゃんから逃げるのに誠一郎を利用した。最後には、誠一郎から逃げるのに親を理由にした―――俺って本当に進歩の無い馬鹿だった。
「結局両親は離婚して、行き場の無くなった俺は寮のある海城に転校させられたって訳・・・・・・」
 一人言葉を続ける俺の髪を、誠一郎は無言で撫で続ける。
「あんたにまた会うことになるとは思わなかったけどさ」
 そう云いながら、誠一郎の手を退けるように俺は身体を起こした。
 視線が会った瞬間ドキッと心臓がはねる。
 怒ってる―――
 優しく感じた手とは裏腹に、誠一郎の目には先程までの優しさはなかった。
「で?言い訳が終わったら、お前はまた譲に戻るのか?」
「戻るって・・・・・・」
 そう続けようとした俺は、いきなり誠一郎に組み敷かれていた。背中に走った鈍い痛み、瞬間分かったのはそれだけだった。
「お前は本当に可愛気がねーな。素直になるのはやってる時だけ。あとはずっと、いかに自分が傷つかないか、逃げることだけ考えてやがる」
「なっ」
「まだ足りないみたいだな。もっと素直に泣かせてやろうか?」
「ちょっ、誠一郎っ、やめっ」
 いつの間にかきちんと着せられていた服を再度脱がしにかかる誠一郎の手は、荒々しくて恐怖以外のなにものでもなかった。
「ひゃっ」
 先程までの情事の跡を残す身体は、触れられれば一瞬にして再燃する。
 胸の突起をついばまれ、その手で中心を刺激されれば、若さ溢れる身体はすぐに陥落してしまうのだ。
 怖いのに、でも疼く身体を止めることはもうできなかった。



「あんたさ、変な趣味してるよね。男相手に欲情するにはもったいないくらいいい男なのに」
 そうからかい交じりに云った俺の言葉に、しばらく考え込んだあとに誠一郎は口を開いた。
「男に欲情したのはお前が初めてだ」
 あまりにもまじめに答える誠一郎に、俺は瞬間きょとんとした視線を向けた後、そのまま腹を抱えて大笑いした。
 だって、普通に考えて、会って数日で無理やり身体の関係を持たされた相手からそんな言葉がでるなんてお笑い以外のなにものでもなかった。
 じゃぁ、あんた男は初めてだったの?なんて云う意地悪な質問にも、誠一郎は真面目腐った顔で頷くだけだった。
 そんな言葉を信じる俺ではなく、ただただ笑い転げては、逆切れした誠一郎に思いっきり殴られたのだ。
「ってぇーなっ」
「お前が馬鹿騒ぎするからだ」
 そう一言云うと、この話は終わりだとばかりに視線をそらした。そのそらし方のぎこちなさに、あぁ、こいつってば柄にも無く照れてるんだなんて、ふとくすぐったさを感じたのだ。



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