先生のお気に入り
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□■ 初デート編 ■□ −2− |
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「来ないぃ〜」 征城が正門前についてからすでに10分、約束の時間を過ぎてから5分が経っても宮瀬晃は姿を見せることはなかった。 9時57分発の駅行きのバスに乗った宮城たちを見送ってから、征城は一人ぽつんと門の前に立っていた。 ここ海城学園まではふもとの駅からバスで30分弱。休日は一時間に3本と云う恐ろしく少ない本数しか走っていないこの路線付近では、バスの停留時間近くにならなければほとんど人通りが無かった。 「からかわれたのかな……」 ぼーっと門に寄りかかりながら呟く。 次のふもとからのバスは17分だから…… それで来なかったら寮に戻ろ…… そう思いながら征城が時計を見た瞬間、大きなクラクションが鳴った。一体何事かと顔を上げる征城の前に無理やりに方向を変えた車が一台止まる。 「悪い悪い」 とまったく悪びれずに車から降りてきた男―――宮瀬晃は征城の手を取ると有無をいわせず助手席に座らせ、自分は再度運転席に乗り込むと車を発進させた。 鼻歌まじりに坂道を運転する晃を横目で見ながら、征城は居心地悪そうに小さく座り、きょろきょろと車内を見渡した。 「この車あんたの?」 「借り物」 「だろうね……」 車の色が赤いだけならばまだしも、後ろにはぬいぐるみが所狭しと並んでいて、フロントガラスにも車が動くたびに揺れるマスコットが付いている。どう見ても女性の車にしか見えなかった。 その小さく揺れているマスコットを征城は指で弾いてみる。車の揺れと征城の与えた動きで、マスコットはゆらゆらと大きく揺れた。 結構可愛いかも…… くすっと笑いながら再度指で弾くとマスコットは更に揺れを大きくする。そんなたわいも無い遊びに夢中になっている征城を横目で見ながら、晃はそっと溜息を付いた。 やっぱただの子供か……? 先日会った時のあのなんとも云い難い征城への気持ちはなんだったのかと考える。 久々母校に帰ってセンチになってただけか……? 自分に向けられたなんとも云えない瞳に惹かれた。 最初はただの顔が綺麗なだけの子供だと思っていた、しかし、その瞳が向けられたほんの数秒でいきなり心を奪われた……それが本物だったのかどうなのか、それを確かめたいと思っていた。 まぁ、まだ時間はたっぷりとあるしな……。 晃は思考をストップさせると、未だマスコットに興味を示し続ける征城へと意識を向ける。 「何処か行きたいとこあるか?」 「あんたが居ないとこ……」 「……可愛くないな……」 「あんたに可愛いとか思われるほうが嫌だよ」 窓の外の景色を見ながらぼそっと云うと、聞こえているのかいないのか晃がくすりと笑う。 「じゃぁ、まぁ、今日は俺におまかせと云うことで……」 そう云いながら晃はぐっと車を加速させ山道を下っていった。 「まだ着かねーの?」 もう飽きたぁ〜と、先程から何度目か判らないくらい同じ台詞を繰り替えす。しかし、そんな征城には答えずに、晃は一人歌を口ずさみながら運転を続けていた。 渋滞しているわけではないが車はなかなか進まない。と云うより、先程からこの車が並んでいる車線だけが何故か動きが遅いようであった。 よくよく見ると、前の方の車が少しずつ左折をしてどこかの駐車場へと入っていくようであった。晃の車が前の車に続いて左に曲がると、一気に目の前が開けた。 わぁ〜 と、一瞬口が開いたままになる。 「なぁ、あそこ行くの?」 征城が指を指した先には大きな観覧車の上部が木々やカラフルな建物の間から見て取れた。 そこはいわゆる遊園地と呼ばれる所であり……。 「あんた俺のことがきだと思って馬鹿にしてんのかっ?」 「の割には顔笑ってるぞ」 言葉とは裏腹にうきうきとしてしまう気持ちを抑えられずに云う征城の顔は、晃に云われるまでもなく嬉しそうである。 だが、ふと征城は顔を曇らせる。 こう云うとこって入場料だけでも結構掛かるんじゃ…… ……俺、金そんな持ってたっけ…… 昨夜財布の中に5,000円くらい残っていたのは確かめてあった。 今朝宮城に1,000円取られて……げ、寝る前にアイス食べてたじゃん―――そう考え出すと自分の財布の中身は多く見積もっても3,000〜4,000円ぐらいであると思われた。 いきなりしゅんと大人しくなった征城の考えがわかったのか、晃が紙切れを2枚差出す。 「貰いもんだから気にするな」 受け取った紙にはそこの遊園地らしき名前と共に『一日フリーパス』と書かれてあった。 「これって一日遊べる奴?」 「そう」 「高いんだろ?」 「だから、貰ったって云っただろ?本当は違うところに行こうかとも考えてたんだが、昨日たまたま2枚貰ったからさ」 そう云いながら、晃は空いているスペースに器用に車を停めた。 駐車場から遊園地の入り口はすぐで、征城はどきどきを押さえられずについつい早足になってしまう。 それにしても…… あんまり人って居ないもんなんだぁ〜 征城の中の遊園地のイメージは常に混んでいると云うものであり、一つのアトラクションに乗るのには最低30分は待たなくてはならないと云うものであった。 あんな混んだ所に行ったってお金を掛けて疲れるだけで、楽しくもなんともないわよ……と、ずっと母親に云われ続け、それに対して大した疑問も覚えずに今まで来たのである。 駐車場に入るまでにはそれなりに時間を要したが、周りを見てみてもそんなに混んでいると云う印象は無かった。 「俺、遊園地って初めてだ……」 ぼそっと呟いた征城の台詞に、晃はちょっと驚いた顔を見せたが、それ以上は何も云わなかった。 |
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