先生のお気に入り


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 入学式から1ヵ月半が過ぎると、一年生の教室内もそれなりに落着きが出てきて、それなりにつるむ仲間のグループと云うものも出来上がってきていた。
 宮城とクラスが分かれた征城は、席が隣と云うこともあり、同じクラスの中では月ケ瀬聖と云う少年と一緒に居ることが多かった。
 聖は茶色の髪と瞳を持っていて、天使のような微笑を携えるその姿は、学ランを着ていても可愛い女の子にしか見えない少年である。幾らまだ幼さ残る中学一年生と云えども、ここまで女の子にしか見えない少年も珍しいくらいである。
 しかも、「可愛いねぇ〜」等、征城が云われたら相手をぼこぼこにしてやりたくなるような言葉を逆に喜んでいる風もあり、そこは征城にはどうしても理解不能であった。
 男子たるもの決して綺麗とか可愛いとか云われて喜んではだめなんだーっ!!と、征城が何度聖に云っても、「誉められたら素直に喜ばなくちゃね」と、逆に征城を諭そうとする程であった。
 
 そんな二人を見つめながら
「月ケ瀬と北条がつるんでると気分は女子高だよな〜」
 とは、そのクラスの全員が思っていることではあるが、それを二人(特に征城)の前で口に出すものは居なかった。
 

「なぁ、聖・・・お前もやっぱり手紙とか貰ってんの?」
 身長がなかなか伸びない征儀は、休みのたびに飲んでいる牛乳パックを潰し、窓の外を眺めながら聖へ声を掛けた。
「手紙ってぇ?」
「え〜と、上級生とかから呼出しとか来ない?」
 大分数は減って来てはいるものの、久々靴箱に入れられた手紙にげんなりしていた征城は、こんな目に遭っているのはやはり自分だけなのかと、聖の答えに落胆しつつ再度問いかけた。
「手紙ってぇ・・・靴箱とかに入ってる紙屑とかぁ?あれって手紙だったのぉ〜?」
「だったのって、宛名とか書いてあるだろ・・・」
「でも、差出人とか無いから悪戯か苛めかと思って全部即捨てしてたよぉ〜」
 にっこり笑みながらそう云うと、聖は征城の持っていた手紙を奪い取り、びりびりに破いて丸め、そのまま教室の隅にあるごみ箱へと投げ入れた。
「差出人を書かないのはマナー違反だからね」
 おいおいおい、それはお前のものじゃないだろう・・・
 と思いながらも、処分に困っていた手紙がなくなると、それだけで征城も気分が楽になる。
 幾ら困った手紙とはいえ、征城にとっては自分ではなかなか処分に困るものであり、内容に関してはほぼしかとを決め込んではいるが、そのほとんどが寮の部屋のダンボールへと仕舞われたままであった。同室の仲間にはばれないようにベッドの下に押込んであるが、一体どうやって処分すればいいのかが今征城の一番の悩みであった。
 時間と資源の無駄だと思うんだけど・・・
「征城もこんなの気にしてるの時間の無駄だよ」
 征城の心を読み取っているかの如く聖は優しく囁いた。

 楽しいはずの学生生活がなぜにこのような事態に陥っているかの説明をしてくれるものもなく、かと云って実力に訴えようとすれば、そこには仕送りストップと云うなんともありがたくないお仕置きが待っているのである。
 宮城曰くあとちょっとの辛抱と云う事だが、そこまで自分を抑えて我慢できるのか、また本当にこの下らない騒ぎが収まるのか、征城は不安でしょうがなかった。

 二時間目が始まるベルが鳴り、ため息をつきながら席につく征城を、聖は心配そうに眺めていた。






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