先生のお気に入り


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 その手紙に征城が気が付いたのは放課後の教室に忘れ物を取りに戻った時だった。
 机の中から落ちた封筒はかなり重たいもので、さすがに手紙だけではないことは征城にも見て取れた。
 授業が終わってすでに2時間、LHRが終わって1時間以上が経っている。本来であれば明日の朝見つけるはずだった手紙を、征城はたまたま忘れ物をしたがために今見つけてしまったのだ。
 忘れ物なんてするもんじゃねー・・・
 と、深くため息を付きながら封筒を床から拾い上げると、征城はその封筒の封を解いた―――普段であれば決して開けはしないのだが、その普段と違う封筒の厚さに疑問を覚えてのことだった。
「っんだーこれ?」
 その封筒の中身は数枚の写真であった―――一枚一枚めくるたびに征城の顔がどんどん赤くなっていく。
 な、な、なんだーっ!!
 この写真は・・・俺か?それともみやか?
 征城がめくる写真には、見知らぬ男に抱きすくめられて胸元を露にしたままもたれ掛かっている自分(か宮城かは瞬間判別つかないが)や、こともあろうか自分から相手の首に腕を回して、まるで甘えているかのように縋り付いているような姿が何枚にもわたって写されていた。
 違うっ!!俺じゃないっ!!
 でも・・・
 でも・・・
 その写真をじーっと見つめても、征城にはどうしても宮城とは思えなかった。どう見ても自分の顔である。親でさえ間違えることがある写真写りではあるが、自分かどうかは本人が一番よくわかるのである。
 なんで・・・
 って云うかこいつ誰っ!?俺、自分が知らないうちに知らない人とこんな変態ちっくなことしてるのっ!?
 パニクリながらふらふらとなんとか壁に手をつくと、征城はその封筒の中に写真以外に手紙が入っていることに気が付いた。それを取り出すとさっと目を通す。
「気に入って貰えたかな?なかなか応えてくれない君へのプレゼントだよ。合成とは思えないくらい良いできだろ?・・・合成っ!?なんだ、合成かぁ〜」
 とりあえず写真に写っている自分が、自分の意志でそのようなことになっているのではないことに安堵を覚えながら、征城は手紙の続きを読んだ。
「今日の放課後5時に第一体育館まで来てくれないと、この写真をどうしてしまうのか僕にも想像がつきません・・・付きませんって・・・って、今日の放課後って・・・今日のこと?それとも明日?」
 この手紙が何時机の中に入れられたのかがわからないだけに、征城にはその「今日」と云う日が、現在の「今日」であるのか「明日」であるのかの判断が付かなかった。
 わかっていることは、今日であろうと明日であろうと、自分がその指定された場所に行かない限りこの合成写真が衆人のもとにさらされると云うことであった。
 幾ら合成とは云え、嫌だよなぁ〜
 って云うか、皆が合成って信じてくれるかも不安だし〜
 喧嘩になって仕送りストップならまだ諦めもつくけど、こんな訳のわからないものばら撒かれて問題になって仕送りストップされたら溜まったもんじゃないし・・・俺って不幸?
 とりあえず教室の時計を見ると5時を少し過ぎた所であった。
 今日か明日かの区別は付かなかったが、征城は本来取りに来た忘れ物もそのままに、第一体育館へと走り始めた。

 ・・・って、第一体育館ってどこだよ〜
 この時ほど、征城はこの広い敷地を持つ私立海城学園を恨めしく思ったことはなかった。







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