不器用なドリーマー 1.5

 毎朝乗るバスに彼が乗ってきた。
 それに気付いた僕は、もうそれだけで胸がどきどきして顔を上げることすら出来なかった。



 初めて彼―――祐大くんを見たのは、中等部のサッカーの試合を見学に行った時。
 弟に頼まれて嫌々応援に行ったんだけど、そこで祐大くんを見つけた。試合は結局負けたけど、その試合を作っていたのは紛れもなく彼、祐大くんだった。
 サッカーのルールがよく分からない僕ですら、その祐大くんの活躍振りがわかった。
 祐大くんのボールを自在に操るしなやかな動きに見惚れていた。
 こんなにどきどきしたのは生まれて初めてだった。
 もう、僕は祐大くんから目を離すことが出来なくなっていた。
 その祐大くんが同じバスに乗っている・・・そう考えるだけで顔が赤くなる。
 本を読む振りをしながら、つい祐大くんを見てしまう。
 なんでこのバスに乗ってるんだろう?
 朝練がある時はもっと早いバス・・・
 無い時はもっと遅いバス・・・
 それこそ自分でもストーカーじみてるな、って思うくらい僕は祐大くんの行動を熟知している。
 図書館の窓からグランドが見える。
 そこから小さくだけど、元気に走り回る祐大くんの姿を見ていた。
 最初はそれだけで満足してたけど、どんどん膨らんでくる僕の欲求。
 練習の無い日も祐大くんを見たいっ!!そんな想いがどんどん膨らんで、今じゃ祐大くんの異動教室のスケジュールまで覚えてしまっているくらいだ。
 僕って絶対やばいよなぁ・・・
 溜息を付きながら、それでも偶然に感謝しつつ再度祐大くんへと視線を向ける。
 あ、こっちを見た。
 僕は急いで本に視線を戻す。
 その瞬間バスが大きく揺れた。
 ばさばさって音と共に、膝に乗せていた荷物や本、それどころか眼鏡まで床に散らばってしまった。
「大変失礼いたしました」
 って云われても・・・
 流れるアナウンスに思わず悪態をつきそうになる、が、どんな酷い言葉を思いついたとしても実際に声に出せるわけもなく、見えない目で運転席の方をじっと睨むしかできなかった。
 バスの運転手さんを恨む訳じゃないけど、なんで祐大くんが居る時にそんなことするかなぁー
 こんな情けない姿・・・
 見られてないよな・・・
 そう思いながら床に落ちた荷物とかを拾おうとした瞬間、バスが動き出して僕の延ばした手の先から眼鏡が滑って行ってしまった。
 しかもよりにもよって祐大くんの方へっ!!
 やばいっ!!
 そう思っている僕に祐大くんがそっと眼鏡を差出してくれる。
「あ、りがと・・・」
 緊張して、最後まではっきりと言葉に出来ない。
 僕の顔は真っ赤じゃないだろうか?
 変な奴とか思われてないだろうか?
 そっと視線を上げる。
 でも眼鏡を外したままの僕の視力じゃ、祐大くんだと判別するくらいしか出来なくて・・・
 せっかくこんな近くで祐大を見れるチャンスだったのに・・・
 でもなんだか、祐大くんがじっと僕を見ている気がする・・・そんな訳ないのに・・・
 でも、やっぱり・・・
 そんなに僕は変な顔をしているのだろうか?
 祐大くんに対する想いが見えてしまっているのだろうか?
 僕は恥ずかしくなって、受取った眼鏡を掛けるとそのまま下を向いてしまった。
「あ、あの・・・」
 上から降ってくる祐大くんの声・・・
 僕の祐大くんへの気持ちに気付いて軽蔑されたんだろうか、すごく硬い声。
 それだけで涙がでそうになる。
 ぎゅっと目を瞑った僕の耳に学園前に着いたと云うバスのアナウンスが響いた。
 もう何かを考えてる余裕なんて無かった。
「ちょっ」
 背中から聞こえてくる祐大くんの声に振り向くことも出来ずに、僕はバスを駆け降りていた。



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