不器用なドリーマー 3

「どう?見つかった?」
 そう笑いながら聞いてくる智一に対して、祐大は寂しそうに首を振った。
 ここ数日、毎日のように繰り返されるこの風景ではあるが、一つだけ違いがあるとすれば、日々祐大の表情が暗くなって行くことであろうか。
「夢だったのかな・・・・・・」
 祐大はふとそんなことを考える。
 休み時間ごとに高等部の校舎に探しに行った。
 サッカー部の写真を持っていたから、応援にきている人の顔をくまなくチェックした。
 写真部の友人にも聞いてみた。
 だが、すぐに見つかるとタカをくくっていた彼の人は、それでも祐大の前に姿を現すことはなかった。
 もう一度、あの時間のあのバスに乗ればもしかしたら、と云う思いもあった。だが、朝練の関係で、どうしてもあの日と同じバスに乗ることだけはできなかった。
 もうすぐ始まる地区予選を前に、それこそレギュラー陣は自主的なものも含め、毎日朝練を行っているのだ。
 中学生活最後の大会に向けた、そんなみんなの思いを自分の勝手な都合で反故にする、そんなことは祐大にはどうしてもできなかった。
 同じ学校の高等部の先輩―――閉ざされた空間の中ですぐに彼の人は見つかると、そうた信じていた。だが、それだけの情報では、自分一人で探すのにもやはり限界があるのだろうかと、最近はそんな不安悩まされる日々なのだ。
 マンモス校とは云えないまでも、6学年をあわせればそれ相応の人数になる。一目見ただけの印象で誰かを特定することなど、もともと無理があったのかもしれない、と。
 なんであの時追いかけなかったのか―――
 いくら咄嗟のことでも、そこまで不甲斐ない対応をとった自分が情けなくなってくる。
「祐大さぁ、あんまり悩むなよ」
 お前には似合わねーよ、と続ける智一に、祐大は寂しそうに微笑むだけだった。



「おじゃましまぁ〜す」
 勝手しったるなんとやら、祐大は主の返事も待たずに上がり込むと、智一の部屋へと向かった。
「おぉ、きたか」
 そう云いながら出迎える智一も慣れたもので、椅子に腰掛けたまま顔をちょっと向けただけだった。
「ってかさぁ、お前の家にはちょくちょく来てたけど、お前に2つ上の兄ちゃんがいるなんて初耳だったぜ」
 ベッドの上に荷物をおろしながら祐大は云う。
 兄貴だったら学校行事とかの集合写真を持っているかもしれないと、そう智一が云ったのは昨日の昼休み。
 その言葉を聞くまで祐大は智一に2つ上の兄弟がいることすら知らなかったのだ。
 この年にもなれば、友達間で家族の話題なんかはそうそう出たりはしない。だが、何度も智一の家に遊びに行っていたのに、その家族構成すら知らなかった自分が、祐大はちょっぴり情けなかった。
「とりあえずアルバム借りておいたから、まずそれでも見ててくれ」
「おう」
「で、お目当ての人が見つかったら兄貴に誰だか聞いてくるよ」
「なに?今日お前の兄ちゃんいるの?」
「いるけど・・・・・・」
 それがどうしたとばかりに不思議そうに智一は答える。
「いや、あんまり静かだから家に誰も居ないのかと思ってた・・・・・・」
 智一しか居ないと思ったからこそ、挨拶もそこそこに家に上がり込んだりしたのだ。
 まさか兄とは云え、家人が居るとは祐大は思ってもいなかった。
「あぁ、気にしなくていいよ。兄貴には今日祐大がくることは話してあるし、もともとあんまり他人のことに構うような人じゃないんだ・・・・・・」
 そう云いながらアルバムを祐大に手渡す。
「サンキュ」
 と軽く云いながら受け取ったそのアルバムは、パラパラとめくると持ち主の性格を表すかのようにきっちりと整理されていた。
「すげぇ」
「几帳面だろ?」
「ってか、俺写真なんてそのまま箱に突込んでるだけだよ・・・・・・」
「俺もだ」
 普通はそうだよなぁ〜と顔を見合わせて二人は頷きあった。
 ただ、これだけ整頓されていれば探す方にもありがたいと、祐大はそのまま意識をアルバムへと集中させていった。



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