不器用なドリーマー 5

「どれっ!?」
「小さくしか写ってないけど・・・・・・」
 絶対この人だと、祐大は迷い気なく指を指す。
 数人で写っている後ろの方にたまたま居たかのようではあるが、瞬間カメラに向いたであろうその瞳に、祐大はそれが彼の人だと確信した。
「えっ?」
「これ、この人っ!!」
「・・・・・・これ?」
 智一の問いかけに、彼の人の姿が指先に隠れて見えないのかと、祐大は指先をそっとずらす。
 しかし、その後も智一は無言のままその写真を見つめたままだった。
「吉藤?」
「・・・・・・」
「おいっ、どうしたんだよっ」
「あ、あぁ、ちょっと、な・・・・・・」
 肩を揺さぶられて、それでやっと祐大の呼掛けに気が付いたかのように、智一は祐大へと視線を戻す。
「ちょっと、って・・・・・・」
「いや・・・・・・祐大。真面目に、絶対、間違えないんだな?」
「あぁ。真面目に、絶対、この人だ」
 そう云い切る祐大の視線から逃れるように写真に視線を戻すと、智一はなんとも云えないような溜息を一回、大きくついた。
「ってか、吉藤の知ってる人なのか?」
「知ってるもなにも・・・・・・」
「知ってるもなにも?」
 疑問形で続けて来る祐大に智一は嫌そうな目を向ける。
 更に困ったような顔をしながら視線を彷徨わせていた智一は、更に大きく溜息をつくといきなり立上がった。
「吉藤?」
「ちょっと待ってろ」
 いきなり立上がった智一に驚きを隠さない祐大を残してドアノブに手をかける。
「絶対俺が戻って来るまでここから動くなよ」
 そう一言残して。
 祐大は一人、訳が分からないとばかりに智一の消えた扉を見つめ続けていた。



 しばらく智一が出て行った扉を見続けていたが、すぐには戻って来る気配がないことを察すると、祐大は再度アルバムへと視線を戻した。
 更にパラパラと捲って行くと、先程の写真以外にも彼の人が写っている物を見つけることができた。
 ただ、どれを取って見ても彼の人が中心に写っている物はなく、それこそ表情が伺えるような物は全くと云っていいほど見当たらなかった。
「集合写真も・・・・・・」
 俯いている物が多いから見落としていたんだと、そう呟く。
 ただでさえ小さくしか写らない集合写真で、俯き加減で写っていればそうそう顔を判別することはできない。
 だが一度見つけてしまえば、顔ではなく雰囲気や形から、そこかしこにと彼の人を見つけることができた。
「あ、これちょっとだけど笑ってるや」
 何があったのか、ほとんど表情なく写っている物に交じって、ちょっとではあるが笑みを浮かべている写真を見つけると、祐大は嬉しそうに呟いた。
 ふと思う。
 高等部の校舎を探していた時も、こんな風に見落としていたんじゃないのか、と。
 印象が強かったのは見上げてきたその瞳だ。
 そればかりに気が向くあまりに、他を全て見落としていた気がするのだ―――それこそ、その一枚の写真を見つけたことによって他も見えてきたかのように。
 今なら見つけられるかもしれない。
 そう彼の人を思い起こすかのように、祐大はそっと瞼を綴じる。
「もうすぐ見つけるよ」
 そう一言呟きながら、先程の写真へと再度手を伸ばす。
 と、そうとした祐大の耳に、バタンと勢いよくドアを閉めるような物音が、今までの静けさを打ち破るかのように響いてきた。
「なんだぁ?」
 とドアへと視線を向けるが、先程の智一の一言を思い出して、しばらく祐大はそこから動けずにいた。



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