不器用なドリーマー 6 | |
今まで物音と云えば自分がめくるアルバムの音くらいだった所に、いきなり大きな音が響いてきて、祐大は驚いたようにドアを見つめる。 もともと智一は粗げた音を立てたりするような男ではない。それこそ、同じように生活しているつもりなのに、祐大と智一では落着きが、ひいてはその行動で巻起こる騒音と云うものの差は比べようもないくらい歴然としていた。 その兄にしたって―――祐大は会ったことはないが、智一の話振りや、今までの感じから、どちらかと云えば智一よりもおとなしいイメージを持っていた。 祐大以外その二人しかいないはずのこの家で、そんな音が響いてくること事態驚きだったが、それに続いて智一の怒ったような声が聞こえてくる。 待ってろとは云われたが、これ以上素知らぬ顔をしていることは祐大にはできなかった。 そっとドアを開けて辺りを伺う。 と、そんな祐大の視界に入ってきたのは、開かずの扉に手を付きながら何事かを叫んでいる智一の姿だった。 「吉藤・・・・・・?」 「祐大」 ちっと舌打ちをしながら智一が振り返る。 開けたらやばかったのかなぁ〜 と、ついつい祐大が思ってしまうくらい、智一の機嫌は最悪に見て取れた。 試合の時ですら、智一には優雅と云う形容詞が似合う。と、そう誰もが思うくらい、何時も穏やかな男なのだ。 ちょっとはムッとしたり、それこそ年相応の態度を見たこともあるにはあるが、そんなものとは比べ物にならないような、それこそ2年を超える付合いの中では見たこともないような表情だった。 「祐大、お前も手伝えっ」 「は?」 「このドアを開けるんだよっ」 そう云いながら指を指すその先には、誰かの部屋ではなくトイレのドアがあった。 「トイレ、誰か入ってるのか?」 「逃げ込んだんだよっ。人が話しをしようとしたらっ」 「誰が?」 そんな祐大の素朴な疑問に、智一は一瞬言葉を詰まらせる。 「誰がトイレに逃げ込んだんだ?」 再度確認するかのように疑問を投げかける祐大に、智一は観念したかのように一言だけ呟いた。 「兄貴だよ・・・・・・」 と。 「なんで吉藤の兄ちゃんがトイレに閉じこもってるんだよ?」 「鍵掛かるのがここだけだからだろ・・・・・・」 答えのようで、実はなんら答えになっていない言葉を返しつつ、智一はトイレのドアを叩き続ける。 しかし。本当に人が入ってるのか?と、祐大が疑いたくなるほどそこからは何の反応も返ってこなかった。 「慧ちゃん、出てこいよっ」 そう怒鳴りながらドアノブをカチャカチャ回す音だけが、中から鍵を掛けていることを物語っていた。 「にーちゃん、腹痛いとかじゃ・・・・・・」 「んな訳ねーだろっ」 「・・・・・・はぁ」 勘弁してくれよ――― そう、祐大が頭を抱えるのも無理ないことで。 トイレの前に若い男が二人、普通に考えなくても変な構図である。 しかもドアの向こうにいるのは、親友の兄とは云えども見たこともない男である。 普段からは想像できない智一の態度に、最初は驚いていただけだった祐大だが、知らぬ間に兄弟喧嘩か何かよく分からないものに巻き込まれているだけなのでは、と思う。 ってか、俺単にアルバム見せてもらいにきただけだよな・・・・・・ 吉藤のにーちゃんがトイレに閉じこもってても俺全く関係無いよな・・・・・・ なんてことを考え始めると、ふと智一の態度にすら腹立ちを覚えて来りもする。 「慧ちゃん、慧ちゃんっ」 そんなことを祐大が思い始めているとも知らずに、智一はトイレから意識を動かそうとはしなかった。 |