不器用なドリーマー 9

 自分が男を好きになったことは、ぶっちゃけさほど気にならなかった。
 男を好きになったと云うよりは、好きになった相手が男だった、ただそれだけだから。
 でも「もし自分の兄貴が男に好かれて、しかもその好意に応える」とか云われたら―――
「絶対嫌だっ」
 としか答えられない。
 自分はよくても兄貴は駄目なのか?
 とか考える以前に身体が拒絶する―――ただそれだけのことだった。
 考えてみれば、自分が男に告白されたとしても、まさに同じように感じたんじゃないだろうか?
 そんな考えは、今すでに男に心をときめかしてしまった身としてはなんとも云い難くはあるのだが。
 それでも
 やっぱり
 この人以外、と考えると―――
 そこまで考えて、祐大は先程よりも更に大きく頭を振った。
「駄目だっ。俺には絶対駄目だっ」




「駄目、なの・・・・・・?」
 頭を抱えて丸まってしまった祐大の背中に、ボソッと寂しそうな声が降ってきた。
「えっ?」
「慧ちゃんっ!?」
 驚きの声と、非難するような叫びが重なって、どの台詞を誰が云ったのか、瞬間分からなかった。
 ただ、声の方向へ向けた祐大の目に映ったのは、ぎゅっと膝の上で拳を握り締めながら俯いたままの慧一の姿だった。
 慧一は先程から微動だにもせず、ただ一つ先程までと大きく違うのは、その俯いた顔が真赤に染まっていることだった。
「ゆ、祐大君はやっぱり嫌なの・・・・・・?」
 今度は先程よりもはっきりとした、だが幾分震えを含んだ声が響く。
「お、れ・・・・・・?」
 何が嫌なのか―――それ以前にそれが目の前の彼の人から発せられている言葉とは信じられず、祐大は目を瞬かせるだけで、その問いに答えることができなかった。
 それこそ、何か自分に都合のいい解釈をしてしまいそうで怖かった。
 男から告白されたって―――
 気色悪いだけだよな―――
 そんな囁きが頭の中をグルグルと巡る反面、もしかしてこの人も「自分のことを想っていてくれたんじゃ」なんて云う、都合のいい思考に支配されそうになるのだ。
「ぼ、僕は・・・・・・祐大くんのことずっと見てたんだ・・・・・・」
「え、あ・・・・・・」
「智一に話を聞いて、でもそんなことある訳ないって・・・・・・、自分の都合のいいように解釈しちゃってるだけなんじゃないかって・・・・・・」
「う、そ・・・・・・」
 そこまではっきり云われても、祐大には絶対の自信が持てなかった。
 自分の都合のいい幻聴が聞こえてきてるだけなんじゃないかと、再度大きく頭を振ってみる。
 だが、目の前の慧一の姿は変わる事なくそこにあり、祐大はゴクッと大きく唾を飲込んだ。
 これは―――
 本当の本当に、現実なのか、も―――
 と、智一を見やると、祐大以上に唖然とした表情で固まっていて―――それを見て初めて祐大は「解釈に間違いなし?」と云う思考にたどり着いたのだ。
「俺は・・・・・・」
「ゆう、た君・・・・・・?」
 そして、智一が目の前にいることも忘れ去り、ただ一言。
「あなたじゃなきゃ駄目なんですっ!!」 
 そう叫びながら、祐大はおもいっきり彼の人を抱き締めたのだった。



「認めないっ、俺は絶対認めないっ」
 そう頭を振りながら智一は叫ぶ。
 だが、すでに二人の世界に突入している祐大と慧一にその声が届くはずもなかったのだが―――。



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